カろもり》
[#ここで字下げ終わり]
句の佳否《かひ》に関《かかは》らず、これらの句が与へる感じは、蕪村《ぶそん》にもなければ召波《せうは》にもない。元禄《げんろく》でも言水《げんすゐ》唯|一人《ひとり》である。自分は言水の作品中、必《かならず》しもかう云ふ鬼趣《きしゆ》を得た句が、最も神妙なものだとは云はぬ。が、言水が他の大家《たいか》と特に趣を異にするのは、此処《ここ》にあると云はざるを得ないのである。言水通称は八郎兵衛《はちろべゑ》、紫藤軒《しとうけん》と号した。享保《きやうはう》四年歿。行年《ぎやうねん》は七十三である。(一月十五日)
托氏《とし》宗教小説
今日《けふ》本郷《ほんがう》通りを歩いてゐたら、ふと托氏《とし》宗教小説と云う本を見つけた。価《あたひ》を尋ねれば十五銭だと云ふ。物質生活のミニマムに生きてゐる僕は、この間《あひだ》渦福《うづふく》の鉢を買はうと思つたら、十八円五十銭と云ふのに辟易《へきえき》した。が、十五銭の本|位《くらゐ》は、仕合せと買へぬ身分でもない。僕は早速《さつそく》三箇の白銅の代りに、薄つぺらな本を受け取つた。それが今僕の机の上
前へ
次へ
全21ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング