小町 (噛《か》みつきそうに)誰がそんなことを云ったのです?
使 (怯《お》ず怯《お》ず)やっぱりさっき小野の小町が、……
小町 まあ、何と云う図々《ずうずう》しい人だ! 嘘つき! 九尾《きゅうび》の狐! 男たらし! 騙《かた》り! 尼天狗《あまてんぐ》! おひきずり! もうもうもう、今度顔を合せたが最後、きっと喉笛《のどぶえ》に噛《か》みついてやるから。口惜《くや》しい。口惜しい。口惜しい。(黄泉《よみ》の使をこづきまわす)
使 まあ、待って下さい。わたしは何も知らなかったのですから、――まあ、この手をゆるめて下さい。
小町 一体あなたが莫迦《ばか》ではありませんか? そんな嘘を真《ま》に受けるとは、……
使 しかし誰でも真に受けますよ。……あなたは何か小野の小町に恨《うら》まれることでもあるのですか?
小町 (妙に微笑する)あるような、ないような、……まあ、あるのかも知れません。
使 するとその恨まれることと云うのは?
小町 (軽蔑するように)お互《たがい》に女ではありませんか?
使 なるほど、美しい同士でしたっけ。
小町 あら、お世辞《せじ》などはおよしなさ
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