《うかが》いに参りました。閣下、これが人間らしい行《おこない》でございましょうか。
 私は閣下に、これだけの事を申上げたいために、この手紙を書きました。私たち夫妻を凌辱《りょうじょく》し、脅迫する世間に対して、官憲は如何なる処置をとる可《べ》きものか、それは勿論閣下の問題で、私の問題ではございません。が、私は、賢明なる閣下が、必ず私たち夫妻のために、閣下の権能を最も適当に行使せられる事を確信して居ります。どうか昭代《しょうだい》をして、不祥の名を負わせないように、閣下の御《ご》職務を御完《おまっと》うし下さい。
 猶、御質問の筋があれば、私はいつでも御署《おんしょ》まで出頭致します。ではこれで、筆を擱《お》く事に致しましょう。

     第二の手紙

 ――警察署長閣下、
 閣下の怠慢《たいまん》は、私たち夫妻の上に、最後の不幸を齎《もたら》しました。私の妻は、昨日《さくじつ》突然失踪したぎり、未《いまだ》にどうなったかわかりません。私は危みます。妻は世間の圧迫に耐え兼ねて、自殺したのではございますまいか。
 世間はついに、無辜《むこ》の人を殺しました。そうして閣下自身も、その悪《に
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