く》む可き幇助者《ほうじょしゃ》の一人になられたのでございます。
私は今日《こんにち》限り、当区に居住する事を止《や》めるつもりでございます。無為無能なる閣下の警察の下《もと》に、この上どうして安んじている事が出来ましょう。
閣下、私は一昨日、学校も辞職しました。今後の私は、全力を挙げて、超自然的現象の研究に従事するつもりでございます。閣下は恐らく、一般世人と同様、私のこの計画を冷笑なさる事でしょう。しかし一警察署長の身を以て、超自然的なる一切を否定するのは、恥ずべき事ではございますまいか。
閣下はまず、人間が如何に知る所の少ないかを御考えになるべきでしょう。たとえば、閣下の使用せられる刑事の中にさえ、閣下の夢にも御存知にならない伝染病を持っているものが、大勢居ります。殊にそれが、接吻《せっぷん》によって、迅速に伝染すると云う事実は、私以外にほとんど一人も知っているものはございません。この例は、優《ゆう》に閣下の傲慢《ごうまん》なる世界観を破壊するに足りましょう。……
× × ×
それから、先は、ほとんど意味をなさない、哲学
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