せう》と靡《なび》いた竹の上に、消えさうなお前が揚《あが》つてゐる。黒ずんだ印《いん》の字を読んだら、大明方外之人《たいみんはうぐわいのひと》としてあつた。

     麝香獣《じやかうじう》

 梅紅羅《ばいこうら》の軟簾《なんれん》の中に、今夜《こんや》も独り眠つてゐる、淫婦|潘金蓮《はんきんれん》の妖《あや》しい夢。

     獺《かはをそ》

 毎晩廊下へ出して置く、台《だい》の物《もの》の残りがなくなるんですよ。獺《かはをそ》が引いて行《い》くんですつて。昨夜《ゆうべ》も舟で帰る御客が、提灯《ちやうちん》の火を消されました。

     黒豹《くろへう》

 お前は歯の美しい Black Mary だ。南京玉《なんきんだま》の首飾りや毛糸の肩掛を持つて行つてやつたら、さぞ喉《のど》をならして喜ぶだらう。

     蒼鷺《あをさぎ》

 何《なん》でも雨上《あまあが》りの葉柳の※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《にほひ》が、川面《かはも》を蒸してゐる時だつた。お前はその柳の梢《こずゑ》に、たつた一羽止まつてゐたが、「夕焼け、小焼け、あした天気になあれ。」――そん
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