な唄を謡《うた》つて通《とほ》つた、子供の時のおれを覚えてゐるかい?
栗鼠《りす》
亜欧堂田善《あおうだうでんぜん》の銅版画《どうばんぐわ》の森が、時代のついた薄明りの中に、太い枝と枝とを交《か》はしてゐる。その枝の上に蹲《うづくま》つた、可笑《をか》しい程悲しいお前の眼つき……
鴉《からす》
「今晩は。」「今晩は。この竹藪は風が吹くと、騒々しいのに閉口します。」「ええ、その上月のある晩は、余計《よけい》何《なん》だか落着きませんよ。――時に隠亡堀《おんばうぼり》は如何《いかが》でした?」「隠亡堀ですか? あすこには今日《けふ》も不相変《あひかはらず》、戸板に打ちつけた死骸がありました。」「ああ、あの女の死骸ですか。おや、あなたの嘴《くちばし》には、髪の毛が何本も下《さが》つてゐますよ。」
ジラフ
これは玩具《おもちや》だ。黄色い絵の具と黒い絵の具とが、まだ乾かずにべたべたしてゐる。尤《もつと》も人間の子供の玩具《おもちや》には、ちつと大きすぎるかも知れない。さしづめあの小ましやくれた、幼児《ランフアン》基督の玩具には持つて来いだ。
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