物の柳に灯《ひ》入りの月が出る。お前は唯遠くで啼いてゐれば好《い》い。
南京鼠《ナンキンねづみ》
上着《うはぎ》は白天鵞絨《しろびろうど》、眼は柘榴石《ざくろいし》、それから手袋は桃色|繻子《じゆす》。――お前たちは皆|可愛《かはい》らしい、支那美人にそつくりだ。後宮《こうきゆう》の佳麗《かれい》三千人と云ふと、おれは何時《いつ》もお前たちが、重なり合つた楼閣の中に、巣を食つた所を想像する。そら、西施《せいし》が芋《いも》の皮を噛《か》じつてゐると、楊貴妃《やうきひ》は一生懸命に車をまはしてゐるぢやないか。
猩々《しやうじやう》
あの猩々《しやうじやう》の鼻の上には、金縁《きんぶち》の Pince−nez がかかつてゐる。あれが君に見えるかい? もし見えなければ、今日《けふ》限り、詩を作る事はやめにし給へ。
鷺《さぎ》
祥瑞《しよんずゐ》の江村《かうそん》は暮れかかつた。藍色《あゐいろ》の柳、藍色の橋、藍色の茅屋《ばうをく》、藍色の水、藍色の漁人《ぎよじん》、藍色の芦荻《ろてき》。――すべてが稍《やや》黒ずんだ藍色の底に沈んだ時、忽ち白
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