婦人だ。お眼が少し赤く爛《ただ》れていらつしやる。鼈甲《べつかふ》の柄《え》のついた眼鏡《めがね》を持つて、一々見物人を御覧になれば好《い》い。
大蝙蝠《おほかうもり》
お前の翼は仁木弾正《につきだんじやう》の鬢《びん》だ。面明《つらあか》りの蝋燭位《らふそくくらゐ》は、一煽《ひかあふ》りにも消し兼ねない。さうしたら、鼻の尖つた、眼張りの強い、脣《くちびる》をへの字に曲げてゐる顔が、うす暗い雲母摺《きららずり》を後《うしろ》にして、愈《いよいよ》気味悪く浮き上るだらう。落款《らくくわん》は東洲斎写楽《とうしうさいしやらく》……
カンガルウ
腹の袋の中には子供が一匹はひつてゐる。あれを出してしまつても、まだ英吉利《イギリス》の国旗か何かが、手品《てじな》のやうに出て来はしないか。
鸚哥《いんこ》
お前は古い唐画《たうぐわ》の桃の枝に、ぢつと止つてゐるが好《い》い。うつかり羽搏《はばた》きでもしようものなら、体の絵の具が剥《は》げてしまふから。
猿
猿よ。お前は一体泣いてゐるのか、それとも亦《また》笑つてゐるのか。お前の顔は悲
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