日本一かどうか、そんなことは彼にも怪《あや》しかったのである。けれども犬は黍団子と聞くと、たちまち彼の側へ歩み寄った。
「一つ下さい。お伴《とも》しましょう。」
 桃太郎は咄嗟《とっさ》に算盤《そろばん》を取った。
「一つはやられぬ。半分やろう。」
 犬はしばらく強情《ごうじょう》に、「一つ下さい」を繰り返した。しかし桃太郎は何といっても「半分やろう」を撤回《てっかい》しない。こうなればあらゆる商売のように、所詮《しょせん》持たぬものは持ったものの意志に服従するばかりである。犬もとうとう嘆息《たんそく》しながら、黍団子を半分貰う代りに、桃太郎の伴《とも》をすることになった。
 桃太郎はその後《のち》犬のほかにも、やはり黍団子の半分を餌食《えじき》に、猿《さる》や雉《きじ》を家来《けらい》にした。しかし彼等は残念ながら、あまり仲《なか》の好《い》い間がらではない。丈夫な牙《きば》を持った犬は意気地《いくじ》のない猿を莫迦《ばか》にする。黍団子の勘定《かんじょう》に素早《すばや》い猿はもっともらしい雉を莫迦にする。地震学などにも通じた雉は頭の鈍《にぶ》い犬を莫迦にする。――こういういがみ合
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