桃太郎
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)桃《もも》の木

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)天地|開闢《かいびゃく》の頃《ころ》おい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+虚」、第4水準2−88−74]
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        一

 むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きい桃《もも》の木が一本あった。大きいとだけではいい足りないかも知れない。この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地《だいち》の底の黄泉《よみ》の国にさえ及んでいた。何でも天地|開闢《かいびゃく》の頃《ころ》おい、伊弉諾《いざなぎ》の尊《みこと》は黄最津平阪《よもつひらさか》に八《やっ》つの雷《いかずち》を却《しりぞ》けるため、桃の実《み》を礫《つぶて》に打ったという、――その神代《かみよ》の桃の実はこの木の枝になっていたのである。
 この木は世界の夜明以来、一万年に一度花を開き、一万年に一度実をつけていた。花は真紅《しんく》の衣蓋《き
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