いを続けていたから、桃太郎は彼等を家来にした後も、一通り骨の折れることではなかった。
 その上猿は腹が張ると、たちまち不服を唱《とな》え出した。どうも黍団子の半分くらいでは、鬼が島征伐の伴をするのも考え物だといい出したのである。すると犬は吠《ほ》えたけりながら、いきなり猿を噛《か》み殺そうとした。もし雉がとめなかったとすれば、猿は蟹《かに》の仇打《あだう》ちを待たず、この時もう死んでいたかも知れない。しかし雉は犬をなだめながら猿に主従の道徳を教え、桃太郎の命に従えと云った。それでも猿は路ばたの木の上に犬の襲撃を避けた後だったから、容易に雉の言葉を聞き入れなかった。その猿をとうとう得心《とくしん》させたのは確かに桃太郎の手腕である。桃太郎は猿を見上げたまま、日の丸の扇《おうぎ》を使い使いわざと冷かにいい放した。
「よしよし、では伴をするな。その代り鬼が島を征伐しても宝物《たからもの》は一つも分けてやらないぞ。」
 欲の深い猿は円《まる》い眼《め》をした。
「宝物? へええ、鬼が島には宝物があるのですか?」
「あるどころではない。何でも好きなものの振り出せる打出《うちで》の小槌《こづち》と
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