た故、黍団子《きびだんご》をやっても召し抱えたのだ。――どうだ? これでもまだわからないといえば、貴様たちも皆殺してしまうぞ。」
 鬼の酋長は驚いたように、三尺ほど後《うしろ》へ飛び下《さが》ると、いよいよまた丁寧《ていねい》にお時儀《じぎ》をした。

        五

 日本一の桃太郎は犬猿雉の三匹と、人質に取った鬼の子供に宝物の車を引かせながら、得々《とくとく》と故郷へ凱旋《がいせん》した。――これだけはもう日本中《にほんじゅう》の子供のとうに知っている話である。しかし桃太郎は必ずしも幸福に一生を送った訣《わけ》ではない。鬼の子供は一人前《いちにんまえ》になると番人の雉を噛《か》み殺した上、たちまち鬼が島へ逐電《ちくでん》した。のみならず鬼が島に生き残った鬼は時々海を渡って来ては、桃太郎の屋形《やかた》へ火をつけたり、桃太郎の寝首《ねくび》をかこうとした。何でも猿の殺されたのは人違いだったらしいという噂《うわさ》である。桃太郎はこういう重《かさ》ね重《がさ》ねの不幸に嘆息《たんそく》を洩《も》らさずにはいられなかった。
「どうも鬼というものの執念《しゅうねん》の深いのには困った
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