格別の憐愍《れんびん》により、貴様《きさま》たちの命は赦《ゆる》してやる。その代りに鬼が島の宝物《たからもの》は一つも残らず献上《けんじょう》するのだぞ。」
「はい、献上致します。」
「なおそのほかに貴様の子供を人質《ひとじち》のためにさし出すのだぞ。」
「それも承知致しました。」
 鬼の酋長はもう一度|額《ひたい》を土へすりつけた後、恐る恐る桃太郎へ質問した。
「わたくしどもはあなた様に何か無礼《ぶれい》でも致したため、御征伐《ごせいばつ》を受けたことと存じて居ります。しかし実はわたくしを始め、鬼が島の鬼はあなた様にどういう無礼を致したのやら、とんと合点《がてん》が参りませぬ。ついてはその無礼の次第をお明《あか》し下さる訣《わけ》には参りますまいか?」
 桃太郎は悠然《ゆうぜん》と頷《うなず》いた。
「日本一《にっぽんいち》[#ルビの「にっぽんいち」は底本では「にっぼんいち」]の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を召し抱《かか》えた故、鬼が島へ征伐に来たのだ。」
「ではそのお三《さん》かたをお召し抱えなすったのはどういう訣《わけ》でございますか?」
「それはもとより鬼が島を征伐したいと志し
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