たのに違いない。伝吉は平四郎に追われながら、父のいる山畠《やまばた》へ逃げのぼった。父の伝三はたった一人《ひとり》山畠の桑の手入れをしていた。が、子供の危急《ききゅう》を知ると、芋《いも》の穴の中へ伝吉を隠した。芋の穴と云うのは芋を囲《かこ》う一畳敷ばかりの土室《つちむろ》である。伝吉はその穴の中に俵の藁《わら》をかぶったまま、じっと息をひそめていた。
「平四郎たちまち追い至り、『老爺《おやじ》、老爺、小僧はどちへ行ったぞ』と尋ねけるに、伝三もとよりしたたかものなりければ、『あの道を走り行き候』とぞ欺《あざむ》きける。平四郎その方《ほう》へ追い行かんとせしが、ふと伝三の舌を吐《は》きたるを見咎《みとが》め、『土百姓《どびゃくしょう》めが、大胆《だいたん》にも□□□□□□□□□□□(虫食いのために読み難し)とて伝三を足蹴《あしげ》にかけければ、不敵の伝三腹を据《す》え兼ね、あり合う鍬《くわ》をとるより早く、いざさらば土百姓の腕を見せんとぞ息まきける。
「いずれ劣らぬ曲者《くせもの》ゆえ、しばく(シの誤か)は必死に打ち合いけるが、……
「平四郎さすがに手だれなりければ、思うままに伝三を疲ら
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