伝吉の敵打ち
芥川龍之介

--
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)父の仇《あだ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|文蔵《ぶんぞう》と云う

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十二年十二月)
--

 これは孝子伝吉の父の仇《あだ》を打った話である。
 伝吉は信州《しんしゅう》水内郡《みのちごおり》笹山《ささやま》村の百姓の一人息子《ひとりむすこ》である。伝吉の父は伝三と云い、「酒を好み、博奕《ばくち》を好み、喧嘩《けんか》口論を好」んだと云うから、まず一村《いっそん》の人々にはならずもの扱いをされていたらしい。(註一)母は伝吉を産《う》んだ翌年、病死してしまったと云うものもある。あるいはまた情夫《じょうふ》の出来たために出奔してしまったと云うものもある。(註二)しかし事実はどちらにしろ、この話の始まる頃にはいなくなっていたのに違いない。
 この話の始まりは伝吉のやっと十二歳になった(一説によれば十五歳)天保《てんぽう》七年の春である。伝吉はある日ふとしたことから、「越後浪人《えちごろう
次へ
全14ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング