上に髑髏《されかうべ》がのつてゐたり、或時は又、銀《しろがね》の椀や蒔繪の高坏《たかつき》が並んでゐたり、その時描いてゐる畫次第で、隨分思ひもよらない物が出て居りました。が、ふだんはかやうな品を、一體どこにしまつて置くのか、それは又誰にもわからなかつたさうでございます。あの男が福徳の大神の冥助を受けてゐるなどゝ申す噂も、一つは確かにさう云ふ事が起りになつてゐたのでございませう。
そこで弟子は、机の上のその異樣な鳥も、やはり地獄變の屏風を描くのに入用なのに違ひないと、かう獨り考へながら、師匠の前へ畏まつて、「何か御用でございますか」と、恭々しく申しますと、良秀はまるでそれが聞えないやうにあの赤い脣へ舌なめずりをして、
「どうだ。よく馴れてゐるではないか。」と、鳥の方へ頤をやります。
「これは何と云ふものでございませう。私はついぞまだ、見た事がございませんが。」
弟子はかう申しながら、この耳のある、猫のやうな鳥を、氣味惡さうにじろじろ眺めますと、良秀は不相變《あひかはらず》何時もの嘲笑《あざわら》ふやうな調子で、
「なに、見た事がない? 都育《みやこそだ》ちの人間はそれだから困る。これ
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