にいたから何か口実を拵《こしら》えてはたびたび僕をつねったりした。おまけに杉浦の家の前を通ると狼《おおかみ》に似た犬をけしかけたりもした。(これは今日考えてみれば Greyhound という犬だったであろう)僕はこの犬に追いつめられたあげく、とうとうある畳屋の店へ飛び上がってしまったのを覚えている。
僕は今漫然と「いじめっ子」の心理を考えている。あれは少年に現われたサアド型性欲ではないであろうか? 杉浦は僕のクラスの中でも最も白※[#「皙」の「白」に代えて「日」、第3水準1−85−31]《はくせき》の少年だった。のみならずある名高い富豪の妾腹にできた少年だった。
二七 画
僕は幼稚園にはいっていたころには海軍将校になるつもりだった。が、小学校へはいったころからいつか画家志願に変っていた。僕の叔母《おば》は狩野勝玉《かのうしょうぎょく》という芳崖《ほうがい》の乙弟子《おとでし》に縁づいていた。僕の叔父《おじ》もまた裁判官だった雨谷《うこく》に南画を学んでいた。しかし僕のなりたかったのはナポレオンの肖像だのライオンだのを描《か》く洋画家だった。
僕が当時買い集めた西洋名
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