る。
二三 ダアク一座
僕は当時|回向院《えこういん》の境内にいろいろの見世物を見たものである。風船乗り、大蛇《だいじゃ》、鬼の首、なんとか言う西洋人が非常に高い桿《さお》の上からとんぼ[#「とんぼ」に傍点]を切って落ちて見せるもの、――数え立てていれば際限はない。しかしいちばんおもしろかったのはダアク一座の操《あやつ》り人形である。その中でもまたおもしろかったのは道化《どうけ》た西洋の無頼漢が二人、化けもの屋敷に泊まる場面である。彼らの一人は相手の名前をいつもカリフラと称していた。僕はいまだに花キャベツを食うたびに必ずこの「カリフラ」を思い出すのである。
二四 中洲
当時の中洲《なかず》は言葉どおり、芦《あし》の茂ったデルタアだった。僕はその芦の中に流れ灌頂《かんじょう》や馬の骨を見、気味悪がったことを覚えている。それから小学校の先輩に「これはアシかヨシか?」と聞かれて当惑したことも覚えている。
二五 寿座
本所《ほんじょ》の寿座ができたのもやはりそのころのことだった。僕はある日の暮れがた、ある小学校の先輩と元町通りを眺《なが》めていた
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