》の間に抱え上げて、彼にも劣らず楽々と肩よりも高くかざして見せた。
それはこの二人の腕力が、ほかの力自慢の連中よりも数段上にあると云う事を雄弁に語っている証拠であった。そこで今まで臆面《おくめん》も無く力競べをしていた若者たちはいずれも興《きょう》のさめた顔を見合せながら、周囲に佇《たたず》んでいる見物仲間へ嫌《いや》でも加わらずにはいられなかった。その代りまた後《あと》に残った二人は、本来さほど敵意のある間柄でもなかったが、騎虎《きこ》の勢いで已《や》むを得ず、どちらか一方が降参するまで雌雄《しゆう》を争わずにはいられなくなった。この形勢を見た多勢の若者たちは、あの猪首《いくび》の若者がさし上げた岩を投げると同時に、これまでよりは一層熱心にどっとどよみを作りながら、今度はずぶ濡れになった彼の方へいつになく一斉に眼《まなこ》を注いだ。が、彼等がただ勝負にのみ興味を持っていると云う事は、――彼自身に対してはやはり好意を持っていないと云う事は、彼等の意地悪《いじわ》るそうな眼の中にも、明かによめる事実であった。
それでも彼は相不変《あいかわらず》悠々と手に唾《つばき》など吐きながら、さ
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