素戔嗚尊
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)高天原《たかまがはら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)たった一人|陽炎《かげろう》の中を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]
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        一

 高天原《たかまがはら》の国も春になった。
 今は四方《よも》の山々を見渡しても、雪の残っている峰は一つもなかった。牛馬の遊んでいる草原《くさはら》は一面に仄《ほの》かな緑をなすって、その裾《すそ》を流れて行く天《あめ》の安河《やすかわ》の水の光も、いつか何となく人懐《ひとなつか》しい暖みを湛《たた》えているようであった。ましてその河下《かわしも》にある部落には、もう燕《つばくら》も帰って来れば、女たちが瓶《かめ》を頭に載せて、水を汲みに行く噴《ふ》き井《い》の椿《つばき》も、とうに点々と白い花を濡れ石の上に落していた。――
 そう云う長閑《のどか》な春の日の午後、天《あめ》の
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