っきのよりさらに一嵩《ひとかさ》大きい巌石の側へ歩み寄った。それから両手に岩を抑《おさ》えて、しばらく呼吸を計っていたが、たちまちうんと力を入れると、一気に腹まで抱え上げた。最後にその手をさし換えてから、見る見る内にまた肩まで物も見事に担《かつ》いで見せた。が、今度は投げ出さずに、眼で猪首の若者を招くと、人の好さそうな微笑を浮べながら、
「さあ、受取るのだ。」と声をかけた。
猪首の若者は数歩を隔てて、時々|髭《ひげ》を噛《か》みながら、嘲《あざけ》るように彼を眺めていたが、
「よし。」と一言《ひとこと》答えると、つかつかと彼の側へ進み寄って、すぐにその巌石を小山のような肩へ抱《だ》き取った。そうして二三歩歩いてから、一度眼の上までさし上げて置いて、力の限り向うへ抛《ほう》り投げた。岩は凄じい地響きをさせながら、見物の若者たちの近くへ落ちて、銀粉のような砂煙を揚げた。
大勢の若者たちはまた以前のようにどよめき立った。が、その声がまだ消えない内に、もうあの猪首の若者は、さらに勝敗を争うべく、前にも増して大きい岩を水際《みぎわ》の砂から抱き起していた。
四
二人はこ
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