や毛皮の寝床の中に、たった一人横になっていた。寝床には菅畳《すがだたみ》を延べる代りに、堆《うずたか》く桃《もも》の花が敷いてあった。昨日《きのう》から洞中に溢《あふ》れていた、あのうす甘い、不思議な※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》は、この桃の花の※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]に違いなかった。彼は鼻を鳴らしながら、しばらくはただぼんやりと岩の天井を眺めていた。すると気違いじみた昨夜《ゆうべ》の記憶が、夢のごとく眼に浮んで来た。と同時にまた妙な腹立たしさが、むらむらと心頭を襲い出した。
「畜生《ちくしょう》。」
素戔嗚《すさのお》はこう呻《うめ》きながら、勢いよく寝床を飛び出した。その拍子に桃の花が、煽《あお》ったように空へ舞い上った。
洞穴の中には例の老婆が、余念なく朝飯の仕度をしていた。大気都姫《おおけつひめ》はどこへ行ったか、全く姿を見せなかった。彼は手早く靴《くつ》を穿《は》いて、頭椎《かぶつち》の太刀を腰に帯びると、老婆の挨拶には頓着なく、大股に洞外へ歩を運んだ。
微風は彼の頭から、すぐさま宿酔《しゅくすい》を吹き払った。彼は両腕を
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