ながら苦もなく二つに折って見せた。そうして冷笑を浮べたまま、戦いを挑《いど》むように女を見た。
女はすでに斧《おの》を執《と》って、三度彼に手向おうとしていた。が、彼が剣を折ったのを見ると、すぐに斧を投げ捨てて、彼の憐《あわれみ》に訴《うった》うべく、床の上にひれ伏してしまった。
「おれは腹が減っているのだ。食事の仕度をしれい。」
彼は捉《とら》えていた手を緩《ゆる》めて、猿のような老婆をも自由にした。それから炉の火の前へ行って、楽々とあぐらをかいた。二人の女は彼の命令通り、黙々と食事の仕度を始めた。
二十五
洞穴《ほらあな》の中は広かった。壁にはいろいろな武器が懸けてあった。それが炉の火の光を浴びて、いずれも美々しく輝いていた。床《ゆか》にはまた鹿《しか》や熊《くま》の皮が、何枚もそこここに敷いてあった。その上何から起るのか、うす甘い※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》が快く暖な空気に漂っていた。
その内に食事の仕度が出来た。野獣の肉、谷川の魚、森の木《こ》の実《み》、干《ほ》した貝、――そう云う物が盤《さら》や坏《つき》に堆《うずたか
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