「てへん+毟」、第4水準2−78−12] 《むし》りながら、
「もう瘤《こぶ》は御癒《おなお》りですか。」
「うん、とうに癒った。」
彼は真面目にこんな返事をした。
「生米《なまごめ》を御つけになりましたか。」
「つけた。あれは思ったより利《き》き目があるらしかった。」
若者は※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12] 《むし》った椿の花を噴き井の中へ抛りこむと、急にまたにやにや笑いながら、
「じゃもう一つ、好い事を御教えしましょうか。」
「何だ。その好い事と云うのは。」
彼が不審《ふしん》そうにこう問返すと、若者はまだ意味ありげな笑《えみ》を頬に浮べたまま、
「あなたの頸《くび》にかけて御出でになる、勾玉《まがたま》を一つ頂かせて下さい。」と云った。
「勾玉をくれ? くれと云えばやらないものでもないが、勾玉を貰ってどうするのだ?」
「まあ、黙って頂かせて下さい。悪いようにはしませんから。」
「嫌だ。どうするのだか聞かない内は、勾玉なぞをやる訳には行かない。」
素戔嗚《すさのお》はそろそろ焦《じ》れ出しながら、突慳貪《つっけんどん》に若者の請《こい》を却《しりぞ》けた。する
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