い》きと横合いから口を出した。彼女はまだ童女の年輩から、いくらも出てはいないらしかった。が、二人の友だちに比べると、顔も一番美しければ、容子《ようす》もすぐれて溌溂《はつらつ》としていた。さっき竹籠を投げ捨てながら、危く鳩を捕えようとしたのも、この利発《りはつ》らしい娘に違いなかった。彼は彼女と眼を合わすと、何故《なぜ》と云う事もなく狼狽《ろうばい》した。が、それだけに、また一方では、彼女の前にその慌《あわ》て方を見せたくないと云う心もちもあった。
「嘘をつけ。」
 彼は一生懸命に、乱暴な返事を抛《ほう》りつけた。が、その嘘でない事は、誰よりもよく彼自身が承知していそうな気もちがしていた。
「あら、嘘なんぞつくものですか。ほんとうに助けてやる心算《つもり》でしたわ。」
 彼女がこう彼をたしなめると、面白そうに彼の当惑《とうわく》を見守っていた二人の女たちも、一度に小鳥のごとくしゃべり出した。
「ほんとうですわ。」
「どうして嘘だと御思い?」
「あなたばかり鳩が可愛《かわい》いのじゃございません。」
 彼はしばらく返答も忘れて、まるで巣を壊《こわ》された蜜蜂《みつばち》のごとく、三方から
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