の間を縫って、時々一生懸命に痛めた羽根をばたつかせたが、どうしても地上三尺とは飛び上る事が出来ないようであった。
素戔嗚は高い柏の上から、しばらくこの騒ぎを見下していた。するとその内に女たちの一人は臂に懸けた竹籠もそこへ捨てて、危く鳩を捕えようとした。鳩はまた一しきり飛び立ちながら、柔かい羽根を雪のように紛々とあたりへ撒《ま》き散らした。彼はそれを見るが早いか、今まで跨《またが》っていた太枝を掴《つか》んで、だらりと宙に吊《つ》り下った。と思うと一つ弾《はず》みをつけて、柏の根元の草の上へ、勢いよくどさりと飛び下りた。が、その拍子《ひょうし》に足を辷《すべ》らせて、呆気《あっけ》にとられた女たちの中へ、仰向《あおむ》けさまに転がってしまった。
女たちは一瞬間、唖《おし》のように顔を見合せていたが、やがて誰から笑うともなく、愉快そうに皆笑い出した。すぐに草の上から飛び起きた彼は、さすがに間の悪そうな顔をしながら、それでもわざと傲然《ごうぜん》と、女たちの顔を睨《にら》めまわした。鳩はその間に羽根を引き引き、木の芽に煙っている林の奥へ、ばたばた逃げて行ってしまった。
「あなたは一体どこ
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