震日録
八月二十五日。
一游亭《いちいうてい》と鎌倉より帰る。久米《くめ》、田中《たなか》、菅《すが》、成瀬《なるせ》、武川《むかは》など停車場へ見送りに来《きた》る。一時ごろ新橋《しんばし》着。直ちに一游亭とタクシイを駆《か》り、聖路加《せいろか》病院に入院中の遠藤古原草《ゑんどうこげんさう》を見舞ふ。古原草は病|殆《ほとん》ど癒《い》え、油画具など弄《もてあそ》び居たり。風間直得《かざまなほえ》と落ち合ふ。聖路加病院は病室の設備、看護婦の服装|等《とう》、清楚《せいそ》甚だ愛すべきものあり。一時間の後《のち》、再びタクシイを駆りて一游亭を送り、三時ごろやつと田端《たばた》へ帰る。
八月二十九日
暑気|甚《はなはだ》し。再び鎌倉に遊ばんかなどとも思ふ。薄暮《はくぼ》より悪寒《をかん》。検温器を用ふれば八度六分の熱あり。下島《しもじま》先生の来診《らいしん》を乞ふ。流行性感冒のよし。母、伯母《をば》、妻、児等《こら》、皆多少|風邪《ふうじや》の気味あり。
八月三十一日。
病|聊《いささ》か快《こころよ》きを覚ゆ。床上「澀江抽斎《しぶえちうさい》」を読む。嘗て小説「芋粥《い
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