《のち》、僕は巻煙草を啣《くは》へたまま、菊池と雑談を交換してゐた。尤《もつと》も雑談とは云ふものの、地震以外の話の出た訣《わけ》ではない。その内に僕は大火の原因は○○○○○○○○さうだと云つた。すると菊池は眉《まゆ》を挙げながら、「※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》だよ、君」と一喝《いつかつ》した。僕は勿論さう云はれて見れば、「ぢや※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]だらう」と云ふ外《ほか》はなかつた。しかし次手《ついで》にもう一度、何《なん》でも○○○○はボルシエヴイツキの手先ださうだと云つた。菊池は今度は眉を挙げると、「※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]さ、君、そんなことは」と叱りつけた。僕は又「へええ、それも※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]か」と忽ち自説(?)を撤回《てつくわい》[#ルビの「てつくわい」は底本では「てつくわ」]した。
 再び僕の所見によれば、善良なる市民と云ふものはボルシエヴイツキと○○○○との陰謀の存在を信ずるものである。もし万一信じられぬ場合は、少くとも信じてゐるらしい顔つきを装《よそほ
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