d報の伝ふるところによると、十日アンダイエで死んだのである。時に歳七十三。
四 新緑の庭
桜 さつぱりした雨上《あまあが》りです。尤《もつと》も花の萼《がく》は赤いなりについてゐますが。
椎《しひ》 わたしもそろそろ芽《め》をほごしませう。このちよいと鼠がかつた芽をね。
竹 わたしは未《いま》だに黄疸《わうだん》ですよ。……
芭蕉《ばせう》 おつと、この緑のランプの火屋《ほや》を風に吹き折られる所だつた。
梅 何だか寒気《さむけ》がすると思つたら、もう毛虫がたかつてゐるんだよ。
八《や》つ手《で》 痒《かゆ》いなあ、この茶色の産毛《うぶげ》のあるうちは。
百日紅《さるすべり》 何、まだ早うござんさあね。わたしなどは御覧の通り枯枝ばかりさ。
霧島躑躅《きりしまつつじ》 常《じやう》――常談《じやうだん》云つちやいけない。わたしなどはあまり忙《せは》しいものだから、今年《ことし》だけはつい何時《いつ》にもない薄紫《うすむらさき》に咲いてしまつた。
覇王樹《サボテン》 どうでも勝手にするが好《い》いや。おれの知つたことぢやなし。
石榴《ざく
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