続野人生計事
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鼻糞《はなくそ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全然|面白味《おもしろみ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]
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     一 放屁

 アンドレエフに百姓が鼻糞《はなくそ》をほじる描写《べうしや》がある。フランスに婆さんが小便をする描写がある。しかし屁《へ》をする描写のある小説にはまだ一度も出あつたことはない。
 出あつたことのないといふのは、西洋の小説にはと云ふ意味である。日本の小説にはない訣《わけ》ではない。その一つは青木健作《あをきけんさく》氏の何《なん》とかいふ女工の小説である。駈落《かけお》ちをした女工が二人《ふたり》、干藁《ほしわら》か何かの中に野宿する。夜明《よあけ》に二人とも目がさめる。一人《ひとり》がぷうとおならをする。もう一人がくすくす笑ひ出す――たしかそんな筋だつたと思ふ。その女工の屁をする描写は予
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