《よ》の記憶に誤りがなければ、甚だ上品に出来上つてゐた。予は此《こ》の一段を読んだ為に、今日《こんにち》もなほ青木氏の手腕に敬意を感じてゐる位なものである。
もう一つは中戸川吉二《なかとがはきちじ》氏の何《なん》とか云ふ不良少年の小説である。これはつい三四箇月以前、サンデイ毎日に出てゐたのだから、知つてゐる読者も多いかも知れない。不良少年に口説《くど》かれた女が際《きわ》どい瞬間におならをする、その為に折角《せつかく》醸《かも》されたエロチツクな空気が消滅する、女は妙につんとしてしまふ、不良少年も手が出せなくなる――大体《だいたい》かう云ふ小説だつた。この小説も巧みに書きこなしてある。
青木氏の小説に出て来る女工は必《かならず》しもおならをしないでも好《よ》い。しかし中戸川氏の小説に出て来る女は嫌《いや》でもおならをする必要がある。しなければ成り立たない。だから屁《へ》は中戸川《なかとがは》氏を得た後《のち》始めて或重大な役目を勤めるやうになつたと云ふべきである。
しかしこれは近世のことである。宇治拾遺物語《うぢしふゐものがたり》によれば、藤大納言忠家《とうだいなごんただいへ》[
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