#「ルビの「とうだいなごんただいへ」は底本では「とうだいなごんだたいへ」]も、「いまだ殿上人《てんじやうびと》におはしける時、びびしき色好《いろごの》みなりける女房《にようぼう》ともの云ひて、夜更《よふ》くるほどに月は昼よりもあかかりけるに」たへ兼《か》ねてひき寄せたら、女は「あなあさまし」と云ふ拍子《ひやうし》に大きいおならを一つした。忠家はこの屁《へ》を聞いた時に「心うきことにも逢ひぬるかな。世にありて何かはせん。出家《しゆつけ》せん」と思ひ立つた。けれども、つらつら考へて見れば、何も女が屁をしたからと云つて、坊主《ばうず》にまでなるには当りさうもない。忠家は其処《そこ》に気がついたから、出家することだけは見合せたが、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]《そうそう》その場は逃げ出したさうである。すると中戸川氏の小説も文学史的に批評すれば、前人未発と云ふことは出来ない。しかし断えたるを継《つ》いだ功は当然同氏に属《ぞく》すべきである。この功は多分中戸川氏自身の予想しなかつたところであらう。しかし功には違ひないから、序《ついで》に此処《こ
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