こ》に吹聴《ふいちやう》することにした。
二 女と影
紋服を着た西洋人は滑稽《こつけい》に見えるものである。或は滑稽に見える余り、西洋人自身の男振《をとこぶり》などは滅多《めつた》に問題にならないものである。クロオデル大使の「女と影」も、云はば紋服を着た西洋人だつたから、一笑に付せられてしまつたのであらう。しかし当人の男ぶりは紋服たると燕尾服《えんびふく》たるとを問はず独立に美醜を論ぜらるべきである。「女と影」に対する世評は存外《ぞんぐわい》この点に無頓着《むとんぢやく》だつたらしい。さう男ぶりを閑却するのは仏蘭西《フランス》人たる大使にも気の毒である。
試みにあの作品の舞台をペルシアか印度《インド》かへ移して見るが好《よ》い。桃《もも》の花の代りに蓮《はす》の花を咲かせ、古風な侍《さむらひ》の女房の代りに王女か何か舞はせたとすれば、毒舌に富んだ批評家と雖《いへど》も、今日《こんにち》のやうに敢然とは鼎《かなへ》の軽重を問はなかつたであらう。況《いはん》やあの作品にさへ三歎の声を惜《おし》まなかつた鑑賞上の神秘主義者などは勿論無上の法悦《はふえつ》の為に即死を遂げたの
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