に相違あるまい。クロオデル大使は紋服の為にこの位損な目を見てゐるのである。
 しかし男ぶりは姑《しばら》く問はず、紋服そのものの感じにしても、全然|面白味《おもしろみ》のない訣《わけ》ではない。成程《なるほど》「女と影」なるものは日本のやうな西洋のやうな、妙にとんちんかんな作品である。けれどもあのとんちんかんのところは手腕の鈍《にぶ》い為に起つたものではない。日本とか我我日本人の芸術とかに理解のない為に起つたものである。虎を描《か》かうと思つたのが猫になつてしまつたのではない。猫も虎も見わけられないから、同じやうに描《か》いてすましてゐるのである。思ふに虎になり損《そこ》なつた彼は小説家になり損《そこ》なつた批評家のやうに、義理にも面白《おもしろ》いとは云はれたものではない。けれども猫とも虎ともつかない、何か怪しげな動物になれば、古来|野師《やし》の儲《まう》けたのはかう云ふ動物恩恵である。我我は面白いと思はないものに一銭の木戸銭《きどせん》をも抛《なげう》つ筈はない。
 これは「女と影」ばかりではない。「サムラヒ」とか「ダイミヤウ」とか云ふエレデイアの詩でも同じことである。ああ云ふ作
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