l 菊池氏は今度|大向《おほむか》うからやんやと喝采《かつさい》される為には※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》が必要だと云ふことを痛感したと云つてゐるだらう。あれは余り信用出来ないね。恐らくはちよつと感じた位だね。まあ、もう少し見てゐ給へ。今に又何かほんたうのことをむきになつて云ひ出すから。

     十 梅花に対する感情

[#天から8字下げ]このジヤアナリズムの一篇を謹厳なる西川英次郎君に献ず

 予等《よら》は芸術の士なるが故に、如実《によじつ》に万象を観《み》ざる可《べか》らず。少くとも万人の眼光を借らず、予等の眼光を以て見ざる可らず。古来偉大なる芸術の士は皆この独自の眼光を有し、おのづから独自の表現を成せり。ゴツホの向日葵《ひまはり》の写真版の今日《こんにち》もなほ愛翫《あいぐわん》せらるる、豈《あに》偶然の結果ならんや。(幸ひにGOGHをゴッホと呼ぶ発音の誤りを咎《とが》むること勿れ。予はANDERSENをアナアセンと呼ばず、アンデルゼンと呼ぶを恥ぢざるものなり。)
 こは芸術を使命とするものには白日《はくじつ》よりも明らかなる事実なり。然れども独
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