背むしが一人蟇口の中を検《しら》べている。そのうちにいつか背むしの左右に背むしが何人も現れはじめ、とうとうしまいにはベンチの上は背むしばかりになってしまう。しかも彼等は同じようにそれぞれ皆熱心に蟇口の中を検べている。互に何か話し合いながら。

          68[#「68」は縦中横]

 写真屋の飾り窓。男女《なんにょ》の写真が何枚もそれぞれ額縁《がくぶち》にはいって懸《かか》っている。が、それ等の男女の顔もいつか老人に変ってしまう。しかしその中にたった一枚、フロック・コオトに勲章をつけた、顋髭《あごひげ》のある老人の半身だけは変らない。ただその顔はいつの間《ま》にか前の背むしの顔になっている。

          69[#「69」は縦中横]

 横から見た観音堂《かんのんどう》。少年はその下を歩いて行《ゆ》く。観音堂の上には三日月《みかづき》が一つ。

          70[#「70」は縦中横]

 観音堂の正面の一部。ただし扉《とびら》はしまっている。その前に礼拝《らいはい》している何人かの人々。少年はそこへ歩みより、こちらへ後ろを見せたまま、ちょっと観音堂を仰いで見る
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