ほんぶつ》を見るより望みはない。自土即浄土《じどそくじょうど》と観じさえすれば、大歓喜《だいかんぎ》の笑い声も、火山から炎《ほのお》の迸《ほどばし》るように、自然と湧《わ》いて来なければならぬ。おれはどこまでも自力《じりき》の信者じゃ。――おお、まだ一つ忘れていた。あの女は泣き伏したぎり、いつまでたっても動こうとせぬ。その内に土人も散じてしまう。船は青空に紛《まぎ》れるばかりじゃ。おれは余りのいじらしさに、慰めてやりたいと思うたから、そっと後手《うしろで》に抱《だ》き起そうとした。するとあの女はどうしたと思う? いきなりおれをはり倒したのじゃ。おれは目が眩《く》らみながら、仰向《あおむ》けにそこへ倒れてしもうた。おれの肉身に宿らせ給う、諸仏《しょぶつ》諸菩薩《しょぼさつ》諸明王《しょみょうおう》も、あれには驚かれたに相違ない。しかしやっと起き上って見ると、あの女はもう村の方へ、すごすご歩いて行く所じゃった。何、おれをはり倒した訳か? それはあの女に聞いたが好《よ》い。が、事によると人気《ひとけ》はなし、凌《りょう》ぜられるとでも思ったかも知れぬ。」
五
わたしは御
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