主人とその翌日、この島の火山へ登りました。それから一月ほど御側《おそば》にいた後《のち》、御名残り惜しい思いをしながら、もう一度都へ帰って来ました。「見せばやなわれを思わむ友もがな磯《いそ》のとまやの柴《しば》の庵《いおり》を」――これが御形見《おかたみ》に頂いた歌です。俊寛《しゅんかん》様はやはり今でも、あの離れ島の笹葺《ささぶ》きの家に、相不変《あいかわらず》御一人悠々と、御暮らしになっている事でしょう。事によると今夜あたりは、琉球芋《りゅうきゅういも》を召し上りながら、御仏《みほとけ》の事や天下の事を御考えになっているかも知れません。そう云う御話はこのほかにも、まだいろいろ伺ってあるのですが、それはまたいつか申し上げましょう。
[#地から1字上げ](大正十年十二月)
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年1月27日第1刷発行
1993(平成5)年12月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」
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