りではない。――一体あの時おれの所へ、船のはいったのを知らせたのは、この島にいる琉球人《りゅうきゅうじん》じゃ。それが浜べから飛んで来ると、息も切れ切れに船々と云う。船はまずわかったものの、何の船がはいって来たのか、そのほかの言葉はさっぱりわからぬ。あれはあの男もうろたえた余り、日本語と琉球語とを交《かわ》る交《がわ》る、饒舌《しゃべ》っていたのに違いあるまい。おれはともかくも船と云うから、早速浜べへ出かけて見た。すると浜べにはいつのまにか、土人が大勢《おおぜい》集っている。その上に高い帆柱《ほばしら》のあるのが、云うまでもない迎いの船じゃ。おれもその船を見た時には、さすがに心が躍《おど》るような気がした。少将や康頼《やすより》はおれより先に、もう船の側へ駈けつけていたが、この喜びようも一通りではない。現にあの琉球人なぞは、二人とも毒蛇《どくじゃ》に噛《か》まれた揚句《あげく》、気が狂ったのかと思うたくらいじゃ。その内に六波羅《ろくはら》から使に立った、丹左衛門尉基安《たんのさえもんのじょうもとやす》は、少将に赦免《しゃめん》の教書を渡した。が、少将の読むのを聞けば、おれの名前がはいっ
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