くさんへんど》の中《うち》にも、おれほどの苦を受けているものは、恒河沙《ごうがしゃ》の数《かず》より多いかも知れぬ。いや、人界《にんがい》に生れ出たものは、たといこの島に流されずとも、皆おれと同じように、孤独の歎《たん》を洩《も》らしているのじゃ。村上《むらかみ》の御門《みかど》第七の王子、二品中務親王《にほんなかつかさしんのう》、六代の後胤《こういん》、仁和寺《にんなじ》の法印寛雅《ほういんかんが》が子、京極《きょうごく》の源大納言雅俊卿《みなもとのだいなごんまさとしきょう》の孫に生れたのは、こう云う俊寛《しゅんかん》一人じゃが、天《あめ》が下《した》には千の俊寛、万の俊寛、十万の俊寛、百億の俊寛が流されているぞ。――」
俊寛様はこうおっしゃると、たちまちまた御眼《おんめ》のどこかに、陽気な御気色《みけしき》が閃《ひらめ》きました。
「一条二条の大路《おおじ》の辻に、盲人が一人さまようているのは、世にも憐《あわ》れに見えるかも知れぬ。が、広い洛中洛外《らくちゅうらくがい》、無量無数の盲人どもに、充ち満ちた所を眺めたら、――有王《ありおう》。お前はどうすると思う? おれならばまっ先に
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