使を立てました。使は元宰先生の手札《しゅさつ》の外《ほか》にも、それらの名画を購《あがな》うべき※[#「士/冖/石/木」、第4水準2−15−30]金《たくきん》を授けられていたのです。しかし張氏は前のとおり、どうしても黄一峯《こういっぽう》だけは、手離すことを肯《がえん》じません。翁はついに秋山図《しゅうざんず》には意を絶つより外《ほか》はなくなりました。

      *     *     *

 王石谷《おうせきこく》はちょいと口を噤《つぐ》んだ。
「これまでは私《わたし》が煙客先生《えんかくせんせい》から、聞かせられた話なのです」
「では煙客先生だけは、たしかに秋山図を見られたのですか?」
 ※[#「りっしんべん+軍」、第4水準2−12−56]南田《うんなんでん》は髯《ひげ》を撫《ぶ》しながら、念を押すように王石谷を見た。
「先生は見たと言われるのです。が、たしかに見られたのかどうか、それは誰にもわかりません」
「しかしお話の容子《ようす》では、――」
「まあ先をお聴《き》きください。しまいまでお聴きくだされば、また自《おのずか》ら私《わたし》とは違ったお考が出るかもしれません
前へ 次へ
全21ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング