すじの線に対する驚異の情を感じ出した。
「じゃ何さ、このすじは?」
「何でしょう? ほら、ずっと向うまで同じように二すじ並んでいるでしょう?」
実際つうや[#「つうや」に傍点]の云う通り、一すじの線のうねっている時には、向うに横たわったもう一すじの線もちゃんと同じようにうねっている。のみならずこの二すじの線は薄白い道のつづいた向うへ、永遠そのもののように通じている。これは一体何のために誰のつけた印《しるし》であろう? 保吉は幻燈《げんとう》の中に映《うつ》る蒙古《もうこ》の大沙漠《だいさばく》を思い出した。二すじの線はその大沙漠にもやはり細ぼそとつづいている。………
「よう、つうや[#「つうや」に傍点]、何だって云えば?」
「まあ、考えて御覧なさい。何か二つ揃《そろ》っているものですから。――何でしょう、二つ揃っているものは?」
つうや[#「つうや」に傍点]もあらゆる巫女のように漠然と暗示を与えるだけである。保吉はいよいよ熱心に箸《はし》とか手袋とか太鼓《たいこ》の棒とか二つあるものを並べ出した。が、彼女はどの答にも容易に満足を表わさない。ただ妙に微笑したぎり、不相変《あいかわらず
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