所を探しに行ってくれた所じゃ。」ちょうど今頃、――もう路ばたに毬栗《いがぐり》などが、転がっている時分だった。
少将は眼を細くしたまま、嬉しそうに独り微笑した。――そこへ色づいた林の中から、勢の好《い》い中学生が、四五人同時に飛び出して来た。彼等は少将に頓着《とんちゃく》せず、将軍夫妻をとり囲《かこ》むと、口々に彼等が夫人のために、見つけて来た場所を報告した。その上それぞれ自分の場所へ、夫人に来て貰うように、無邪気な競争さえ始めるのだった。「じゃあなた方に籤《くじ》を引いて貰おう。」――将軍はこう云ってから、もう一度少将に笑顔《えがお》を見せた。……
「それは罪のない話ですね。だが西洋人には聞かされないな。」
青年も笑わずにはいられなかった。
「まあそんな調子でね、十二三の中学生でも、N閣下と云いさえすれば、叔父《おじ》さんのように懐《なつ》いていたものだ。閣下はお前がたの思うように、決して一介の武弁《ぶべん》じゃない。」
少将は楽しそうに話し終ると、また炉の上のレムブラントを眺めた。
「あれもやはり人格者かい?」
「ええ、偉い画描《えか》きです。」
「N閣下などとはどうだろう?
前へ
次へ
全38ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング