かった。盲人は咄嗟《とっさ》に身構えをした。と思うと眼がぱっちりあいた。「憾《うら》むらくは眼が小さ過ぎる。」――中佐は微笑を浮べながら、内心|大人気《おとなげ》ない批評を下した。
舞台では立ち廻りが始まっていた。ピストル強盗は渾名《あだな》通り、ちゃんとピストルを用意していた。二発、三発、――ピストルは続けさまに火を吐《は》いた。しかし巡査は勇敢に、とうとう偽《にせ》目くらに縄《なわ》をかけた。兵卒たちはさすがにどよめいた。が、彼等の間からは、やはり声一つかからなかった。
中佐は将軍へ眼をやった。将軍は今度も熱心に、じっと舞台を眺めていた。しかしその顔は以前よりも、遥かに柔《やさ》しみを湛《たた》えていた。
そこへ舞台には一方から、署長とその部下とが駈《か》けつけて来た。が、偽目くらと挌闘中、ピストルの弾丸《たま》に中《あた》った巡査は、もう昏々《こんこん》と倒れていた。署長はすぐに活《かつ》を入れた。その間《あいだ》に部下はいち早く、ピストル強盗の縄尻《なわじり》を捉《とら》えた。その後《あと》は署長と巡査との、旧劇めいた愁歎場《しゅうたんば》になった。署長は昔の名奉行《めい
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