をなしつつ、圜揚《まるあ》げ(圜《まる》トハ鳥ノ肝《きも》ヲ云《いう》)の小刀《さすが》を隻手《せきしゅ》に引抜き、重玄を刺さんと飛びかかりしに、上様《うえさま》には柳瀬《やなせ》、何をすると御意《ぎょい》あり。清八はこの御意をも恐れず、御鷹《おたか》の獲物はかかり次第、圜《まる》を揚げねばなりませぬと、なおも重玄を刺《さ》さんとせし所へ、上様にはたちまち震怒《しんど》し給い、筒《つつ》を持てと御意あるや否や、日頃|御鍛錬《ごたんれん》の御手銃《おてづつ》にて、即座に清八を射殺し給う。」
 第二に治修《はるなが》は三右衛門《さんえもん》へ、ふだんから特に目をかけている。嘗《かつて》乱心者《らんしんもの》を取り抑えた際に、三右衛門ほか一人《ひとり》の侍《さむらい》は二人《ふたり》とも額に傷を受けた。しかも一人は眉間《みけん》のあたりを、三右衛門は左の横鬢《よこびん》を紫色に腫《は》れ上《あが》らせたのである。治修はこの二人を召し、神妙の至りと云う褒美《ほうび》を与えた。それから「どうじゃ、痛むか?」と尋ねた。すると一人は「難有《ありがた》い仕合せ、幸い傷は痛みませぬ」と答えた。が、三右衛
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