りしに、一時|病《や》み鳥となりしことあり。ある日上様清八を召され、富士司の病《やまい》はと被仰《おおせられ》し時、すでに快癒の後《のち》なりしかば、すきと全治《ぜんじ》、ただいまでは人をも把《と》り兼《か》ねませぬと申し上げし所、清八の利口をや憎《にく》ませ給いけん、夫《それ》は一段、さらば人を把らせて見よと御意あり。清八は爾来《じらい》やむを得ず、己《おの》が息子《むすこ》清太郎《せいたろう》の天額《てんがく》にたたき餌《え》小ごめ餌などを載せ置き、朝夕《あさゆう》富士司を合せければ、鷹も次第に人の天額へ舞い下《さが》る事を覚えこみぬ。清八は取り敢ず御鷹匠|小頭《こがしら》より、人を把るよしを言上《ごんじょう》しけるに、そは面白からん、明日《みょうにち》南の馬場《ばば》へ赴《おもむ》き、茶坊主|大場重玄《おおばじゅうげん》を把らせて見よと御沙汰《ごさた》あり。辰《たつ》の刻《こく》頃より馬場へ出御《しゅつぎょ》、大場重玄をまん中に立たせ、清八、鷹をと御意ありしかば、清八はここぞと富士司を放つに、鷹はたちまち真一文字《まいちもんじ》に重玄の天額をかい掴《つか》みぬ。清八は得たりと勇み
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