(顔を隠しながら)ああ、このまま消えてもしまいたいようだ。
第一の農夫 そのマントルを着て御覧なさい。そうすれば消えるかも知れません。
王子 畜生《ちくしょう》!(じだんだを踏む)よし、いくらでも莫迦《ばか》にしろ。わたしはきっと黒ん坊の王から可哀そうな王女を助けて見せる。長靴は千里飛ばれなかったが、まだ剣もある。マントルも、――(一生懸命に)いや、空手《からて》でも助けて見せる。その時に後悔《こうかい》しないようにしろ。(気違いのように酒場を飛び出してしまう。)
主人 困ったものだ、黒ん坊の王様に殺されなければ好《い》いが、――
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三
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王城の庭。薔薇《ばら》の花の中に噴水《ふんすい》が上《あが》っている。始《はじめ》は誰もいない。しばらくの後《のち》、マントルを着た王子が出て来る。
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王子 やはりこのマントルは着たと思うと、たちまち姿が隠れると見える。わたしは城の門をはいってから、兵卒にも遇《あ》えば腰元《こしもと》にも遇《あ》った。が、誰も咎《と
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