ごすご起き上りながら、酒場の外へ行こうとする。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
主人 もしもし御勘定を置いて行って下さい。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから1字下げ]
王子無言のまま、金《かね》を投げる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
第二の農夫 御土産は?
王子 (剣の柄《つか》へ手をかける)何だと?
第二の農夫 (尻ごみしながら)いえ、何とも云いはしません。(独り語《ごと》のように)剣だけは首くらい斬《き》れるかも知れない。
主人 (なだめるように)まあ、あなたなどは御年若《おとしわか》なのですから、一先《ひとまず》御父様《おとうさま》の御国へお帰りなさい。いくらあなたが騒《さわ》いで見たところが、とても黒ん坊の王様にはかないはしません。とかく人間と云う者は、何でも身のほどを忘れないように慎《つつし》み深くするのが上分別《じょうふんべつ》です。
一同 そうなさい。そうなさい。悪い事は云いはしません。
王子 わたしは何でも、――何でも出来ると思ったのに、(突然涙を落す)お前たちにも恥《は》ずかしい
前へ 次へ
全19ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング