い》いか。飛び上ったと思うと見えなくなるぞ。
主人 その前に御勘定《おかんじょう》を頂きましょうか?
王子 何、すぐに帰って来る。土産《みやげ》には何を持って来てやろう。イタリアの柘榴《ざくろ》か、イスパニアの真桑瓜《まくわうり》か、それともずっと遠いアラビアの無花果《いちじく》か?
主人 御土産《おみやげ》ならば何でも結構です。まあ飛んで見せて下さい。
王子 では飛ぶぞ。一、二、三!
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王子は勢好《いきおいよ》く飛び上る。が、戸口へも届《とど》かない内に、どたりと尻餅《しりもち》をついてしまう。
一同どっと笑い立てる。
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主人 こんな事だろうと思ったよ。
第一の農夫 干里どころか、二三間も飛ばなかったぜ。
第二の農夫 何、千里飛んだのさ。一度千里飛んで置いて、また千里飛び返ったから、もとの所へ来てしまったのだろう。
第一の農夫 冗談《じょうだん》じゃない。そんな莫迦《ばか》な事があるものか。
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一同大笑いになる。王子はす
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