が》めたものはない。このマントルさえ着ていれば、この薔薇《ばら》を吹いている風のように、王女の部屋へもはいれるだろう。――おや、あそこへ歩いて来たのは、噂《うわさ》に聞いた王女じゃないか? どこかへ一時身を隠してから、――何、そんな必要はない、わたしはここに立っていても、王女の眼には見えないはずだ。
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王女は噴水の縁《ふち》へ来ると、悲しそうにため息をする。
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王女 わたしは何と云う不仕合せなのだろう。もう一週間もたたない内に、あの憎《にく》らしい黒ん坊の王は、わたしをアフリカへつれて行ってしまう。
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獅子《しし》や鰐《わに》のいるアフリカへ、(そこの芝《しば》の上に坐りながら)わたしはいつまでもこの城にいたい。この薔薇の花の中に、噴水の音を聞いていたい。……
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王子 何と云う美しい王女だろう。わたしはたとい命を捨てても、この王女を助けて見せる。
王女 (驚いたように王子を見なが
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